周囲を信用して、役割を委譲できること







 自分で起業をして、ビジネスを立ち上げることができる能力のある人は、自分でもその高い能力を自覚しながら事業を行っていくことが多くなりますが、逆に能力が高いがゆえに陥りやすいことがあります。それは、「周囲の人間の能力が低い」と感じやすく、そのために他者を信用することができず、役割や権限が移譲できないという問題です。

 起業家が自分自身のビジネスアイデアで起業した場合、
「提供する商品・サービスに関しての知識や経験」
「顧客に対しての接客態度・方法」
「事業に対するモチベーション」

などは、最初の段階では当然それを始めた起業家自身が一番高いことになりますが、周囲の人間がそれと同じ水準になっていないことについて強い不満を抱くようになってしまします

 周囲の人間が自分の期待する水準に達していない場合に、信用して重要な機能を委任することができず、結果として全部を自分でやらなければ気が済まないというようなことも起こってしまします。これはそれほど一般的に使われる言葉ではありませんが、アメリカの起業関連の文献などではこういったことを

Do It Yourself Syndrome(自分でやらなければ気が済まない症候群)

と呼んでいるものもあります。特に最近ではプログラマーなどの知的な部分が大きい職種において、そういったことが多く起こることが多いようです。

 しかし、起業家が大きな成果を上げようとする際に、起業家個人の能力に依存した形で事業が行われている限りは、その発展性も非常に乏しいものになりがちです。ここでも前半の章で議論したとおり、「専門職的なプロセス」で事業を行っていくと、それがために発生しやすい問題も多く、その問題を解決することがメインの仕事になりがちになってしまします。そのため、起業家は「アントレプレナー的なプロセス」で事業を発展させていくためにも、周囲を信用して役割を委譲していく、ということが必要になります。

 「自分は有能だ」と考えている起業家が、周囲を信用して役割を委譲していくことができないときに言われることとして、「周囲に優秀な人がいない」「優秀な人間が集まらない」などということがあります。しかし、周囲がそのような状況から全く進歩しないのは、ほとんどの場合、起業家自身に問題があるといってよいでしょう。

 「周囲に優秀な人がいない」のは、起業家自身が優秀な人に育てる仕組みを作ろうとしていないことが問題です。また、起業家が行っている事業に「優秀な人間が集まらない」のは、起業家が行っている事業が魅力的な事業ではなかったり、「来てほしい人」の具体的な提示をしていなかったり、「優秀な人」に対しての報酬を不当に安くしようとしていたりするからです。

 周囲の人間の能力が低いままで、信用して役割が移譲できない場合、それはすべて起業家自身の責任といえるのです。

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