安いこと以外で、定量的に計りにくいメリットを必死で考える







 顧客にとって、価格が「安い」ということは、メリットの一つでしかありません。しかし、もっとも分かりやすい指標であるため、提供者側としては、どうしてもそれを「いじって(manipulate)」アピールしたくなるものなのですが、先に説明したとおり、価格は常に「リーゾナブル(reasonable)」でなければならないので、そこを操作するのは、すべての理由が整ってからにしなければなりません。理由もなくあれこれと操作するようなことはしてはならないのです。

 自分が提供しようとしている商品・サービスが、顧客にどんなメリットをアピールしても「とにかく安くないと売れない」としたら、その業界は相当な過当競争に入っているので、これからビジネスをスタートする起業家が新規に参入すべき事業ではありません。すでにその業界で生計をたてているとしても、本当にそのような過当競争に入っているのであれば、起業家の判断で、その業界ではなくもっと収益性の高い事業を探したほうがよいでしょう。利幅を減らすことでしか、成立しないようなビジネスは、近い将来に危機に陥ってしまいます。

 「買い手に値段を比較されてしまう」というのは、定量的に比較しやすい「モノ」を近くで売っている場合です。隣会った商店で、「仕様が全く同じモノ」が「違う価格」で売っていたとしたら、当然安い価格で売っているほうから購入することになります。最近はインターネットが普及しているため、物理的に離れたところにある売り手の価格を比較して購入するのも非常に簡単になっているので、日本全国あるいは全世界で同じものを売っている会社の中から最も安いところから購入することがやりやすくなっています。そのため、「仕様が定まってしまっているモノ」では、どのようにあがいても熾烈な価格競争に陥ってしまいます。そのため、単に「モノを売る」ということは、起業家が参入すべき市場ではないことが分かります。

 そのため、これからビジネスをスタートする人は、定量的に簡単に比較しにくいサービスを中心にメリットを必死で考え、提供していくことになります。それでも、既存サービスにすでに参入している人が、「それでも、最近はとにかく安くしないと売れない」という場合があります。しかし、価格競争が激しくなって、「1円」や「1セント」まで下げないと売れないサービスというのはほとんどないわけですので、多くの場合、それを考えようとしていないだけなのです。

 「価格」は定量的で分かりやすい指標です。しかし、ビジネスにおいて、商品やサービス(特にサービス)を売る場合に、顧客が「買いたい、買おう」と思う場合の指標というのは、価格以外のたくさんの要素があります。実際には価格以外の要素のほうが大きく関連します。もし、自分が起業して、顧客に何らかの価値を提供するのに、価格という価値でしかものが考えられないのであれば、それはその人が愚人(Stupid Person)だからです。自分がそういう人物である場合には、たいていの場合、うまくいかないので、起業はしないほうがよいのです。

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「最初の客」がきわめて重要






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