起業前には、「虫のよいこと」を考えやすい







 実際に事業をやったことがある人、実際に顧客と対応をしたことがある人(営業職など)はそうでもありませんが、これから「起業したい」と考えている人、特に大企業や役所で、定期的にサラリーをもらいながら仕事を行ってきた人が、起業熱にうなされている場合、その計画の過程では、極めて「自分にとって虫のよいこと」を考えやすい傾向にあるようです。

 顧客は普通、簡単にはお金は払ってくれないものですが、これまで「自動的に」お金を払ってもらえていた人は、その感覚が全くないまま、「起業する!! 」という情熱に突き進み、そして全く顧客からお金を払ってもらえずに終わってしまう、ということが起こってしまいます。

 顧客は、あなたが「長時間働いているから」でも、「面白いことをやっているから」でもなく、「顧客に何らかの価値を提供しているから」その対価としてお金を払ってくれるのです。しかし、これまで何らかの形でお金を「自動的に」「受け取れる理由を考えずに」受け取ってしまっていると、その「なぜ顧客がお金を自分に払うのか?」ということに関しての嗅覚が極めて鈍くなります。

 ビジネスとは「顧客がいること」が成立のための絶対条件で、「顧客がいなくなることで」成立しなくなります。顧客は「自分の提供している価値を認め、お金を出す」という行為を行うのですが、この「お金を出す」というタイミングで、多くの人が、急に態度が豹変したり、嫌な人になったりして、感情が大きく動いてしまうものです。この部分が「機械的」「自動的」というようなことは、ほとんどありえないのです。

 そのあたりの感覚がずれてしまっていると、極めて実効性の低い計画でビジネスをスタートさせようとし、ビジネスにもならないまま終わるということも多くあります。こういったことは、日本人に限らずアメリカ人でも非常に多いことのようです。だからこそ、何度も説明されるように、アメリカの起業家教育においては、その最初の段階で、

・ はじめようとするビジネスのアイデアは何なのか?
・ それについて適切に分かりやすく説明ができるのか?エレベーターピッチはあるか?
・ 本当に実現可能なものなのか?(フィージビリティの確認)

ということを、徹底的に確認する作業をしていくことになります。

 顧客は、「何の理由もなくお金を払う」ということは絶対にありませんし、「1度買ってくれたから」といって、繰り返し買ってくれるというものでもありません。しかし、事業を始める前には、そういった「虫のよい考え」で突き進んでしまいがちなのです。

 アメリカの実践的な起業家研修プログラムにおいては、そのアイデアの不完全な部分を参加者全員でインタラクティブに確認していく作業を行っていくことになります。

 顧客は、極めて「お金を払う」という行為についてはシビアです。

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顧客は最初、極めて「懐疑的」である






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