事業は公(パブリック)なものである







 事業の目的を「売却(EXIT)可能な状態にすること」とすると、多くの自尊心の強い起業家の方などは、「”自分の”事業を売却する気は全くない」という反応になりがちなようです。

 アメリカで最も成功した外食フランチャイズビジネスと言われるマクドナルドでさえ、ハンバーガー製造システムを作り上げたマクドナルド兄弟は、レイロックからそのハンバーガー製造システムをフランチャイズ化して大きく展開することを提案されても、当初は極めて消極的であったことはよく知られています。

 それでも、ハンバーガーを作って販売するのに「マクドナルド兄弟に依存しない」「効率的に製造販売ができるシステム」というのを作り上げていたことで、その仕組みを展開する権利を他者(レイロック)に売却することもでき、大きく展開することで成功を収めることができたといえます。

 「事業(ビジネス)」は、「顧客がいること」つまり「顧客に何かしらの価値を提供する」ことでしか始まらず、「顧客がいなくなる」ことで成立しなくなるので、最初から最後まで他者との関係を維持しなければ成立していかないものです。その意味では、事業や会社は、その役割としては常に社会性を持った公(パブリック)なものといえます。

 先般、日本でも「会社は誰のものか?」というような議論が発生しましたが、会社の所有(Property)という観点で行けば、「会社」は一義的に「出資者(Investor)」「株主(Share Holder)」が、出資している比率に応じて所有するものです。

常に誰かに所有されている「会社」が運営する「事業」とは常に他者との関係で成立する常に公(パ ブリック)なものですので、その意味では「会社」と「事業」というのは独立した存在といえます。

 ビジネス・スタートアップに成功した初期の段階においては、多くの場合に、「事業」と「起業家(個人)」が強力に紐づいています。そのため、その事業を始めた起業家は、「自分の始めた事業」に対して、「自分の事業」という極めて強い愛着(悪い言葉で言えば執着)を持っていて、「自分自身」と「事業」を切り離して考えることができない場合が多くなってしまいます。しかし、本来的には「起業家」と「事業」というのは独立して存在するものといえるのです。

 起業家が「自分が始めたビジネス」に対しての執着をもつことは、どちらかと言えば、日本のほうがより強くなる傾向があるようです。アメリカで起業している人でもそういたこだわりを持つ人がいないわけではありません。ただ、アメリカの独立宣言が出されたのが1776年で、まだ国自体の歴史も300年もない国ですので、「先祖代々」という形で何百年も成立している事業も存在しませんので、そういった概念はやはり日本と比べればはるかに希薄であるといえるでしょう。

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日本人とアメリカ人の最高権力経験者のその後






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