危機対応こそ「システム化」







 第二章において、起業家が参入すべきビジネスとは、顧客にとって、

「必要(necessary)」かつ「緊急(emergent)」かつ「痛み (pain) を伴う」

で、こういった状況にある人の問題を解決する「商品・サービス」を起業家が提供することによって収益性の高いビジネスとなりやすくなることを説明しました。

 目を転じて、起業家がこの章で例示したような困難・危機に陥っているということは、

「必要(necessary)」かつ「緊急(emergent)」かつ「痛み (pain) を伴う」状況にいる

ということです。そして、そういった状況を解決するための商品・サービスを提供することが収益性の高い「儲かる」ビジネスであるということは、逆にそれを解決しなければならない人にとっては、非常に高いコストのかかる事柄であるといえます。

 起業家が、事業に対しての経験も少なく様々なリソースも少ない段階では、事前に予測できないような要因で危機的な状況に陥ることは必ず起こり、かつ頻度としては少なくはないため、その状況に応じた適切な対応を行っていける能力を持つことは必要です。起業家は大きな成果を達成するために、さまざまな困難や危機をその卓越した能力で克服していかなければなりません。

 しかし、事業が危機的な状況に陥ったときに、その状態がいちいち起業家自身の属人的な能力によって処理されなければ解決できない場合には、それは完成度の高い「売却可能な」事業とはなりません。投資家が株式を購入したいと思う事業とは、当然ながら「収益性が高い」かつ「リスクが少ない」事業なのです。

 多くの「売却可能な事業」、たとえば市場に株式を公開しているほとんどの上場企業においては、その事業で危機が起こった際には、それに責任を持って対応するための広報担当者などが役割として明記されています。(もちろん、株式を上場しているすべての企業が完璧な危機対応能力を備えているわけではありませんが。)つまり、完成度の高い事業とは、事業に危機が起こった際にも、それに対応するシステムが出来上がっている事業といえます。

 起業家が、事業をスタートする際に、絶対に必要なことは「顧客がいること」であるので、その初期の段階ではセールスやマーケティングといった、売上や利益に直接的につながりやすい前向きなことがらに注力することにます。それと比べると、「リスク管理」や「危機対応」の「システム化」といった事柄は、後ろ向きで定量的に計測のしにくい(お金にならない)活動のため、起業家の優先度としては低くなります。

 しかし、自分が行っている事業で、「どのような危機が起こりやすく、それに対してどのような対策を用意するか」、「突発的な危機が発生した時にどのように対応するか」ということをシステム化できない場合、起業家はそのような「緊急事態」に常に振り回されることになってしまいます。
しかし、起業家の仕事とは「頭を使うこと」です。直接的なお金につながることだけでなく、危機対応も含めた事業全体の「システム化」を目指していくべきといえます。

次ページ
アントレプレナーは知識では生まれない






次ページ
アントレプレナーは知識では生まれない

起業関連本