論争的・議論好き(argumentative)でないこと







 アメリカの起業家研修においては、「エレベーターピッチのトレーニング」や「マーケット分析の発表」「フォーマルなビジネスプランの発表の練習」などがインタラクティブに行われることが多くなりますが、その際、発表の途中で講師から内容について質問をされた受講者がうけた質問に対して反論的に回答をする際に、以下のようなことを注意されることがあります。

Don’t be argumentative.(論争的にはならないように)

 起業を予定している情熱や才能にあふれた人の中には、学歴なども非常に高く、論理的な思考に優れた人達もたくさんいます。事業を行っていく上では、論理的な思考に非常にすぐれていることが有利に働くことも多いものですが、論理的であることが全く効果的に働かず、むしろ逆効果として働いてしまうこともあります。

 それは、起業家自身が非常に論争的・議論好き(argumentative)な場合などです。

 起業家のこれまでの経験として、営業やマーケティングの分野でなく、技術系や間接部門での経験をもとに事業を始めるような場合には、どちらかといえばこういった傾向が強くなるといってよいでしょう。特に、高度な知的教育を受けた人たちによってビジネスが始められようとするとき、こういった「論争好きなメンバー」によって構成されることも多くなります。

 起業家が事業を行う場合には、これまでに述べてきたとおり、様々な利害関係者に対して「前向きな」「価値の提案」を行って、それを相手に受け入れてもらうことが必要です。しかし、議論好きな人がこれを行おうとするとき、「自分が正しいことを証明する」あるいは「相手を論破する」ことによって自分の提案を受け入れさせようとすることが頻繁に起こってしまいます。

 たとえば、見込み客に自分の商品・サービスの説明をする際に、購入を躊躇している場合などに、相手を「論破」しようとし始めてしまったり、チームのメンバーとその方針を決めようとする際に、「正しい方向性」についての議論がまとまらない、などといったことが起こったりします。その結果、「論破することには成功したけれども、提案は受け入れられない」ということを繰り返してしまいます。

 しかし、こういった形で導き出された「正しいこと」というのは、「(お金を支払うほどの)価値のあること」とは合致しないことが多くなってしまいます。

 ビジネスの世界とは、「どちらかが正しく、どちらかが間違っている」という勝ち負け(Win-lose)の決着をつけるための場所ではなく、「前向きな価値の提案を行い、それを前向きに受け入れてもらう」ための場所である、といえます。

 その意味では、起業家が提案する「価値」は、常にWin-Winの関係性を前提とした、非常に分かりやすいものである必要があります。もし、自分が行った提案が相手に受け入れられない場合は、その相手と論争を行うのではなく「提案内容・仕方が不十分」「提案する相手が間違っている」といった前提で修正作業を行っていくべきといえるでしょう。

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顧客が好きで、顧客(市場)をよく観察していること






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