本質的な価値を見失わず、変化に対応する人であること







 起業家は顧客に対して、常に「前向きな価値の提案」を行いながら、事業を行っていくことになります。そして、起業家が行う「価値の提案」を受け入れるかどうかは、提案された顧客の側が決定することになります。

 あるタイミングで起業家が顧客に対して行った「価値の提案」が広く受け入れられ、ビジネスが順調に立ち上がったとしても、その状態が未来永劫続くとは限りません。むしろ、その状態は将来的には必ず変化して行くもの、と考えたほうがよいでしょう。なぜなら、顧客が「お金を出してもよいほどの価値」と感じること(価値観)は常に変化を繰り返すものだからです。

 社会の中での人々の価値観の変化は、近年になって特に激しくなってきているといわれています。世の東西を問わず世間で発生する「流行」や「ブーム」は、あるタイミングで急激な盛り上がりを見せると同時に、そのライフサイクルは非常に短くなり、急速に収束しやすくなっています。

 提供される商品・サービスが「キャラクター」や「デザイン」「コンセプト」のような目に見えない情報的な付加価値によって、「流行」や「ブーム」が発生している場合には、特にその傾向が強くなるといってよいでしょう。

 市場の中の顧客に対して、「前向きな価値の提案」を行っていかなければならない起業家も、その極めて速い価値観の変化に対応していかなくてはならない存在といえます。しかし、市場の中でその時々で発生する「流行」や「ブーム」に対してのみ、「価値の提案」を行っていくことは、起業家にとっても非常にリスクも多いため、避けるべき態度であるといえます。

 近年における価値観の変化は様々な分野で速度を上げ、急速なものになりつつありますが、それでも世の中の価値観には「変化しやすい(棄損しやすい)価値観」ばかりではなく「本質的に変化しにくい(棄損しにくい)価値観」というものも数多く存在します。起業家が事業を行う際には、従業員や株主など継続的な関係性を維持していかなければならない利害関係者というのも数多く存在するので、そういった「本質的に変化しにくい価値観」に基づいた安定的・継続的な収益を期待できる事業を行っていくべきといえます。

 しかし、そのような事業は、あるタイミングで「流行」や「ブーム」にのった商品サービスが世間に受け入れられると、それらに比べると収益効率が極めて低いことが多いため、意図的に切り捨てられるなどしてしまうことがあります。その後、急速に「流行」や「ブーム」によって生み出された付加価値が棄損してしまったときに、結局起業家にはなにも残らないということも起こってしまいます。

 起業家は、当然に市場の変化に対応した「価値の提案」を常に行っていかなければならない存在ではありますが、それと同時に「本質的な価値」を見失わないということが必要になります。

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起業は不況下で始めてこそ成功するものである






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