最初から「安い」は禁句 価格はリーズナブルでなければならない







 米国の起業家研修を行う際にはほぼ必ずエレベーターピッチを作り、インタラクティブに講師との対話を行うなどしながらその練り直しの作業が行われるのですが、多くの受講者が初期の段階で口にして注意されてしまう事柄があります。それは「安い(low price)」という言葉です。先に、エレベーターピッチに含むべき内容として、

「なぜあなたに提供するのか?あなたにどんな価値があるのか?(Why you?)」

というのを含むべき、ということを言いましたが、ここに多くの人は「安い」ということを入れてしまいがちで、それを注意されてしまいます。

 事業というのは、本質的に「お客さんに価値のあるものを提供し」、「正当な対価を得ながら利益を出していく」ことが継続のためには必要なことです。そして、「安くする」ということは、「利益を出しにくくする」ということです。そのため、エレベーターピッチという顧客に接する最初のタイミングから、「自分は安い」ということを簡単に言ってしまってはだめなのです。

日本語にはあまりそれに近い言葉がありませんが、英語には
「リーズナブル(reasonable)」
という言葉があります。

日本語でも外来語としてこの言葉は時々使われますが、実は本来的な意味を理解している人の割合はあまり多くないかもしれません。reasonable とは「reason + able」ですので、本来は「理由が説明できる」「合理的な」というような意味です。(日本語のビジネスの現場でよくつかわれる言葉としては、「ワケあり」に近い意味の言葉です。)事業を行う上で価格は常にリーズナブルでなければならないのです。

 価格というのは、一番簡単にいじることができる最もわかりやすいものなので、「安くする」ということで顧客を獲得していきたいという心理が働くものですが、自分から「安い」といったとき、それは相手が受けるイメージは「Cheap(安っぽい、ちんけな)」であったり、「Shabby(みすぼらしい)」であったりしてしまいます。つまり、安いのにも、理由がいるのです。つまりリーズナブルである必要があるのです。

 お客さんは、「安い」というだけで買うわけではありません。最近、日本では特に食品関連の業界において「産地偽装」がいろいろなところで摘発されています。裏を返せば、このことは消費者が「国産」「○○産」であれば価格は高くても買い、「中国産」や「産地不明」の場合には安くても買わない、ということを示しています。つまり、理由があれば高く買い、安くてもその安い理由が気に入らなければ買わなかったり、「安い理由が分からない」場合にも買わなかったりするのです。

 ビジネス・スタートアップで、新規に顧客を得ていくためには、できるだけ早く目先の顧客を獲得するということも必要になるのですが、それ以上にリーゾナブルに価値を提供し、継続的に利益を得ていくことが非常に重要です。顧客が獲得できたとしても、「安い」ため、いつになっても利益が出ない(悪い場合には赤字)になるようなビジネスであっては、ビジネスをスタートさせる意味がないのです。

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安いこと以外で、定量的に計りにくいメリットを必死で考える






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