「専門職的なプロセス」による起業を推奨しない理由







 顧客に対して価値のある商品・サービスを提供して、ビジネスをスタートさせることに成功すると、大きく

「専門職的なプロセス」
「アントレプレナー的なプロセス」

に分かれていくことになります。そして、どちらの方向に進むのも間違った方向性ではありません。ただ、多くのアメリカの起業家研修においては、どちらかといえば「専門職的なプロセス」ではなく「アントレプレナー的なプロセス」に進むことを推奨しているようです。

 「専門職的なプロセス」を推奨しないことの理由の一つは、ビジネス・スタートアップに成功して、「専門職的なプロセス」に進んでいくと、商品やサービスの提供が、きわめて属人的な部分に左右されやすくなるため、何らかの理由で価値の高い仕事を行っている人がいなくなってしまうと、安定した品質での事業が行いにくくなるからです。

 たとえば、調理師としての職を持っている人が、レストランを開業しているような場合に、「調理方法がその人の腕やその日の気分に左右される」場合や、「調理師が休みで別の人が作ると味が変わる」というような場合には、顧客にとっては「期待できる価値」が訪れた日や時間によってかなりぶれることとなり、顧客が固定客とはなりにくくなってしまいます。

  顧客に対して継続的に価値のある商品・サービスを提供するためには、顧客が「期待している価値を知っている」ことが重要で、「常にその期待を満たし続ける」ことで成立します。この部分が、「専門職的なプロセス」で提供され、属人的であり続ける限りは、ビジネスとしても安定しにくくなるため、システム化に向かう「アントレプレナー的なプロセス」というのを推奨することになります。

 また「専門職的なプロセス」に進んでいる人が、「顧客の期待」を正確に理解し、「期待を満たし続ける」仕事を常に行っているような場合にも、サービスの提供が属人的である場合には、需要が増えた際には、「仕事を行う時間を増やす」か「需要を断る」という選択をせざるを得なくなります。多くの場合には、ぎりぎりまで「仕事を行う時間を増やす」というところまで持っていくのですが、そのような仕事を長期間続けていると、いつの間にか自分の意思とは関係のない何か他のものに「奉仕させられている状態」となり、精神的にも行き詰まりやすくなってしまいます。

 医師や弁護士のような資格等によって参入障壁の高い職業であれば、社会的な地位も高く、専門職的なサービスを提供することによって、比較的多くの収入を得て余裕のある生活をしていくことも可能な場合も多いですが、一般的な職業においてはそうでないことのほうが多くなるといえるでしょう。

 多くのスモールビジネスが、このような状態で事業を行い、多くの不安や不満を抱えてビジネスを行っているため、そのようなプロセスをあまり「推奨はしない」のです。

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より社会性を意識するアントレプレナー






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