理論上は「コスト期待値無限大」で必ず破滅するはずなのに、「99.9%以上の確率」で胴元が儲かるゲーム

福島原子力発電所の事故が起こって以来、自分の頭の中で浮かんでしまって消えない昔ならった数学の話。

高校数学の確率の初歩中の初歩の話に、「期待値」の概念がある。あるゲームが報酬を伴う場合、起こりうる事象をすべてを羅列して、(ある事象が起こる確率)に(その事象が起こった時に得られる報酬またはコスト)をかけて、すべて足し合わせると期待値になる。

たとえば、さいころを振って出た目の金額がもらえるとすると、その期待値は

期待値 = 1*(1/6) + 2*(1/6) +3*(1/6) +4*(1/6) +5*(1/6) +6*(1/6)  = 3.5

となる。なのでこのゲームに胴元がいて、ゲームに参加するのに1回あたり 4 の参加費を取るとしたら、胴元の期待収益は

胴元の期待収益 = (ゲームの回数) * 0.5

となる。理論上は大体儲かるという計算になる。こういうゲームであれば、想定外の確率で偏った目が出ても、「損失は有限」で、ある程度の留保を持っていれば胴元が破産することは少ない。たいていのギャンブルの胴元は大損をしないようにこういう計算を徹底的に行うだろう。

しかし、胴元が計算理論上は無限大の損失をこうむって破滅してしまうのに、99.9 %以上は儲かるゲームというのがある。まずは、以下の簡単なゲームを考えてみる。






ルール:
さいころを振って偶数がでたら報酬が倍になり、奇数が出たらそこで終了。胴元は奇数が出るまでゲームを止めることはできない。

極めてシンプルなゲームのルールである。高校数学の確率の参考書でも、かなり前半で例題になるレベルの問題だろう。これは、「計算上は」ゲームの参加者の報酬の期待値は無限大になる。

最初の1回目の報酬が1だとすると

1回目で奇数が出る確率 1/2 報酬額 0
1回目だけ偶数が出る確率 1/4、報酬額 1
2回目まで偶数が出続ける確率 1/8 、報酬額 2
3回目まで偶数が出続ける確率 1/16 、報酬額 4
・・・
n回目まで偶数が出続ける確率 1/(2^(n+1))、報酬額 2^(n-1)
・・・

で報酬の期待値は

(報酬の期待値)
= 1/2 * 0 + 1/4 *1 + 1/8 * 2 + ... + 1/(2^(n+1)) * 2^(n-1) + ...
= 0 + 1/4 + 1/4 + 1/4 + ... + 1/4 + ...
= ∞ (無限大)

となる。

「参加費が一切かからない」とすれば、参加者は「絶対に損はしない、指数級数的に儲かる可能性があるゲーム」なのでやらない手はない。逆に、こんなゲームの胴元になろうとするバカも絶対にいないだろう。

しかし、このゲームへの「参加費用が500」だとすると、少し話が変わってくる。

ゲームの参加者が500のコストを払ってそれ以上の報酬を得るためには、偶数を10回以上出し続ける必要がある。偶数が10回以上出続ける確率は、1/(2^10) = 0.0009727... で0.1% 以下しかない。しかし、「それを突破してしまえば」指数級数的に報酬が大きくなる「何億も儲かるおいしいゲーム」となる可能性は残っている。

逆にこのゲームの胴元がいたとして、このゲームに500払って参加する人が大勢いたとすると、ほとんどの場合は多くても4,5回までにで奇数が出て終了してしまうので、参加費用ほぼ丸もうけのような

「99.9 %以上儲かる=ほぼ100%儲かる ≒ 絶対儲かる(絶対安全な)」
「おいしいビジネスモデル」となる。

これは、胴元側のリスクをさらに減らすために、参加費用を1千にしても、1万にしても、1億にしても、理論上の「儲かる確率は99.9%以上」である。ただし、ある水準を突破してしまうと指数級数的にコストが増大してしまう「コスト期待値無限大」のままであることに注意する必要がある。(計算式は略)

「仮に確率0.1%以下のことが起こったらどうなるの?」と聞かれたら「そんなことは普通は起こらないよ(笑)」として、胴元を続けることになる。質問をした人も「そうだよね、まあ普通は起こらないよね(笑)」となんとなく納得する。

ただし、このゲームの難点は「あり得ないこと」が一発起こってしまうと、胴元は何もなす術がなく突然破滅してしまうことだ。しかも、理論上は「続けている限りは、いつか必ず」破滅する。

だから何だということはないが、数学や確率には表現のマジックが含まれることもあるということを肝に銘じるためには良い題材ではあると思う。

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このブログ記事について

このページは、が2011年4月27日 15:11に書いたブログ記事です。

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